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「時効の援用」は、正式には「借金の消滅時効の援用」と呼ばれます。長いあいだ請求されていない借金について、「時効が来たので、この借金はもう支払わない」という意思を、債権者に対してはっきり伝えることを指します。
借金には「消滅時効」というルールがあり、一定期間、請求や支払いがないまま経過すると、法律上は返済義務をなくすことができる場合があります。ただし、時効は時間が経てば自動で適用されるわけではありません。借主側から「時効を使います」と主張する法律上の行為が「時効の援用」で、この援用が行われてはじめて、その借金について返済義務がない扱いにできる可能性が生まれます。
消滅時効が完成しており、かつ時効の援用が有効に行われた場合、その借金については返済義務がなくなると扱われます。これまで督促や請求に悩んでいた人にとっては、支払いそのものから解放される可能性がある点が大きなメリットです。ただし、実際に時効が完成しているかどうか、途中で時効が止まっていないかなど、個別の状況の確認は欠かせません。
時効を援用しておくと、その借金については、後から改めて請求されたり、裁判を起こされたりするリスクを減らせるといわれています。支払いをしないまま放置している状態と比べると、借金との関係を一区切りつけやすくなる点もメリットです。内容証明郵便などで書面を残しておけば、「いつ、どの債権について時効を援用したか」を確認しやすくなります。
時効期間が実は足りていなかったり、途中で裁判や支払督促などがあり時効が中断・猶予・更新されていたりすると、「時効が完成しているはず」と思って援用しても受け入れられないことがあります。また、通知書の書き方ややり取りの内容によっては、かえって借金の存在を認めたと評価され、時効期間がリセットされるリスクも指摘されています。自己判断だけで進めると不利になるおそれがある点には注意が必要です。
時効の援用で返済義務がなくなっても、過去の延滞や長期未払いといった事実が、信用情報機関の記録として一定期間残っている場合があります。その間は新たなローンやクレジットカードの審査に通りにくくなることがあるため、「借金はなくなったが、すぐにクレジットを使えるようになる」とは限りません。また、相手の会社によっては、以後の取引を断られるなど、心理的・実務的な影響が残る可能性もあります。
一般的な流れとしては、まず「本当に時効期間が経過しているか」を確認することから始めます。最終返済日や最後に督促を受けた日、裁判や分割払いの合意がなかったかなどを整理し、時効が中断・猶予・更新されていないかをチェックします。そのうえで、時効援用通知書を作成し、内容証明郵便など証拠が残る方法で債権者宛てに送るのが一般的とされています。自分だけで判断しにくい場合は、法律の専門家へ相談する方法もあります。
時効援用通知書に決まった書式はありませんが、次のような項目をはっきり書いておくと、どの債権について時効を援用したのかが相手に伝わりやすくなります。
| 項目 | 記載内容・例 |
|---|---|
| 宛先 | 請求してきている会社名・担当部署名などを正式名称で書きます。 例:「○○株式会社 御中」「○○カード株式会社 債権管理部 御中」など |
| 差出人の情報 | 現住所・氏名・生年月日・電話番号などを記載します。債権者から送られてきた書類に会員番号やお客様番号があれば、その番号も一緒に記載しておくと特定がしやすくなります。 |
| 債務の特定 | どの借金について時効を援用するのかを明確にします。「○年○月○日締結の金銭消費貸借契約に基づくカード利用残高」「契約番号○○○○のキャッシング債務」など、契約日や契約番号、商品名などを書き添えます。 |
| 時効援用の意思表示 | 上記の債務について、既に消滅時効が完成していると考えていること、その時効を援用する旨を簡潔に記載します。たとえば「本書をもって上記債務につき消滅時効を援用いたします」などの表現がよく用いられます。 |
| 日付と署名 | 通知書を作成した日付を明記し、自筆の署名(場合によっては押印)をします。内容証明郵便で送る場合は、同じ文面の控えを手元に保管しておくと後日の確認に役立ちます。 |
時効には、借金が消える「消滅時効」のほかに、長年の占有によって土地などの権利を得る「取得時効」もあります。取得時効は、ある物を一定期間占有し続けることで所有権などを得られる制度ですが、その途中で占有をやめてしまったり、他人に占有を奪われてしまったりすると、時効のカウントがゼロからやり直しになります。このように取得時効が中断している場合、その期間を通算して時効を援用することはできません。土地や建物に関する争いでは、占有が継続していたかどうかが大きなポイントになります。
借金の「消滅時効」は、一定期間が経過すると完成しますが、その進行が一時的にストップすることがあります。これを「時効の完成猶予」と呼びます。具体的には、債権者が裁判を起こしたり、支払督促の手続を取ったり、仮差押え・仮処分を申し立てた場合、あるいは内容証明郵便で支払いを催告した場合などには、期間のカウントがしばらく止まる仕組みがあります。合意のうえで返済方法を話し合う「協議の合意」をしたときにも、一定期間は時効が進まないとされています。このように完成猶予の事由があるあいだや、その後の一定期間が終わるまでは、「時効が過ぎた」と思えても援用できない点に注意が必要です。
進行していた時効がリセットされて、新しい時効期間のカウントが始まることを「時効の更新」といいます。たとえば、債権者が裁判を起こし、それにより権利が判決で確定した場合や、強制執行の手続が行われた場合などには、消滅時効が更新されるとされています。また、借金をしている側が「残額はいくらですか」「分割で支払います」などと、借金の存在を前提に話をまとめると、権利を認めた(承認した)と評価され、やはり時効が更新されるケースがあります。いずれの場合も、更新前に経過していた期間はいったんリセットされるため、新たな時効期間が過ぎていなければ援用ができないことになります。
「時効の援用」は、一定の条件を満たした借金について、借主側から「時効を使います」と伝えることで、返済義務をなくせる可能性がある制度です。一方で、時効期間の計算を間違えたり、中断・猶予・更新の事実を見落としたりすると、かえって不利になるおそれもあります。
すでに長期間放置されている借金なら時効の援用が選択肢になる場合もありますが、時効がまだ来ていない借金や、裁判・督促などで時効が止まっている借金がある場合は、任意整理などの債務整理を検討することも一案です。利息や将来利息のカット、返済期間の見直しなどにより、毎月の返済負担を調整しやすくなるケースがあります。
借金の状況は人それぞれ異なるため、不安が大きいときは、債務整理を扱う弁護士・司法書士などに相談して、自分のケースで時効の援用が可能か、任意整理のほうが適しているのかを一緒に検討してもらうと良いでしょう。東京周辺で相談先を探したい場合は、以下のページもご活用ください。