公開日: |更新日:
学費を補助できる奨学金は、進学したい人にとってはありがたい制度です。しかし、奨学金はあくまで貸与なので返還の義務があります。ここでは、奨学金の返還が困難になった場合に任意整理の対象となるかどうかについて解説しているので、奨学金を返還中の人は参考にしてみてください。
できるかできないかで言えば、奨学金返還が困難になった場合に任意整理の対象とすることは可能です。しかし、奨学金の返還は任意整理の対象としてはあまり向いていません。
その理由として挙げられるのが、奨学金の金利の低さです。カードローンやクレジットカードのリボ払いなどの一般的な金利の上限は、年間最大20.0%となっています。これに対し、奨学金の金利は、上限3.0%と大幅に低いのです。
任意整理は、借金の利息をカットする手続きなので、奨学金のように金利が低いとその恩恵も必然的に少なくなります。
前述の通り、任意整理は奨学金の返済が難しいときの解決法としては効果的ではありません。以下に、奨学金の返還が難しいときに効果的な制度をまとめてみましたので、ぜひ参考にしてみてください。
月々の奨学金の返還額は、日本学生支援機構に申し出ることで減額が可能です。災害や傷病、経済的な理由で月々の返還が厳しい状態なら、この減額返還制度を利用することで、返還額を1/2もしくは1/3に減額できます。
日本学生支援機構が発表している「返還金の回収状況及び令和元年度業務実績の評価について」によれば、令和元年度における減額返還の申請数は3万902件となっており、たくさんの奨学生がこの制度を利用していることがわかるでしょう。
月々の返還額を減額すれば、返還を滞らせることなく無理のない返還が可能となります。ただし、月々の返還額は減額されるものの、全体の返還額自体が減額されるわけではないということは注意が必要です。また、月々の返還額が減額されるということは、必然的に返還期間がその分長くなるということも忘れないようにしましょう。
奨学金の返還を先延ばしにできる制度として、返還期限猶予制度があります。
この制度は一定期間奨学金の返還をストップできるというもので、日本学生支援機構による「返還金の回収状況及び令和元年度業務実績の評価について」によれば、令和元年時点でこの制度を利用している奨学生は15万169件と発表されています。
在学中で十分な収入がない期間や、退職して就職活動中である場合には、この制度を利用して一時的に返還をストップしておき、就職して十分な収入が得られるようになったら返還を再開するといった利用の仕方が有効でしょう。なお、猶予期間は通算で最大10年間、その間は延滞金もかからないので、返還が困難だと判断したら、滞納せずに適切な手続きを取るようにしましょう。
この制度も、奨学金の返還を一時的にストップするものです。返還期限猶予制度との違いは、一定の基準をクリアした人が利用可能な制度という点。
所得連動返還型無利子奨学制度の目的は、「学ぶ意欲と能力があるにもかかわらず、経済的理由で学業を断念することのないよう、家計状況の厳しい世帯の学生・生徒の将来の返還の不安を軽減し、安心して学べるようにすること」となっています。そして、選考は無利子の第1種奨学金の利用者の中から一定の条件をクリアした奨学生を選ぶ形で行われます。
また、猶予期間に制限が設けられていないのも返還期限猶予制度との大きな違いです。ただし1年ごとの申請と承認が必要となります。
場合によっては、奨学金の返還自体が困難あるいは不可能になることがあります。そうしたときに必要なのが返還免除制度です。
返還免除制度は、奨学生が死亡した場合、もしくは精神・身体の障害によって働くことが不可能になったときにのみ、奨学金の全額もしくは一部の返還免除が可能となる制度となります。そのため、基本的には奨学金の返還自体を免除されることはないと考えましょう。
この制度を利用する際には、まず日本学生支援機構に相談のうえで貸与奨学金返還免除願の交付を受けます。そして、奨学生の死亡もしくは奨学金の返還が不可能になったことを証明する書類や診断書などを提出します。
通常、奨学生本人が死亡した場合、その返還義務は連帯保証人が負うことになります。しかし、返還免除制度を利用することで、連帯保証人の返済義務も免除されるのです。
奨学金の返還が困難になったときに適切な手続きを行わず、そのまま放置していると、さまざまなトラブルに繋がります。
月々に定められている金額の返還ができないと行われるのが、まず電話や文書による催促です。同時に、延滞が発生した日の翌日から延滞金が発生します。
滞納期間が3ヶ月に達すると、信用情報機関に事故情報が登録され、クレジットカードなどの新規取得や利用が不可能に。さらに4ヶ月になると債権回収会社による催促が開始されるのです。
そして、停滞期間が9ヶ月に達すると、奨学金の一括返還請求や法的措置の予告、裁判所の支払催促および仮執行宣言付支払催促の申立、給与の差し押さえなどの強制執行といった重い法的措置が取られることになります。
奨学金の返還が困難になった場合、任意整理を行うことができます。
任意整理は債務整理の中のひとつで、債権者に対して直接交渉を行う方法です。債務整理には任意整理のほかに個人再生、特定調停、自己破産の合計4種類の手続きがありますが、なかでも任意整理は広く利用されています。
任意整理を行う際には、債権者と直接交渉して、借金の減額と返済スケジュールの変更を行います。これによって、将来的に支払わなくてはいけない利息や遅延損害金をカットすることで借金の総額や月々の返済額を減額するのです。
反面、任意整理を行うと信用情報に事故情報が登録される、完済から5年経過するまでクレジットカードや各種ローンが利用できなくなるというデメリットがあるので気をつけましょう。
ただし、奨学金の返済問題を解決する手段としての任意整理は、あまり効果的ではありません。なぜなら、奨学金は一般的なローンに比べて大幅に金利が低いので、任意整理によってカットできる利息もそれほど大きくはないからです。
奨学金の返還が困難となった場合には、さまざまな解決手段があります。どんな手段を選べばいいかわからない場合には、弁護士に相談してみるというのも有効です。一般的に奨学金の返済問題の解決には、任意整理ではなく個人再生や日本学生支援機構が用意している減額返還制度をはじめとする制度を利用するのがいいでしょう。しかし、奨学金以外にもカードローンなどの借金がある場合には任意整理が有効な場合もあります。